今回取り上げるのは、源氏鶏太の「たばこ娘」という短編です。
昭和22年(1947年) 「オール讀物」に発表
角川文庫 「初恋物語」に収録
あらまし
戦後まもない時期の貧乏サラリーマンと闇たばこを売る娘を描いた作品。
源氏鶏太の出世作であり、代表的傑作と言ってよいでしょう。
源氏鶏太の最も優れた短編です。
数多くある氏の作品の中でわたしの最も好きな短編でもあります。
あらすじ
登場人物
わたし 28歳
たばこ娘(岩瀬ツユ) 18歳
ツユの母
わたし(主人公)はヘビースモーカーの貧乏サラリーマンです。街角で闇たばこを売っているたばこ娘ツユから買うことにしています。ツユの顔は狆(ちん)に似ています。ツユは一箱15円で他よりも安くわたしに売ってくれるのですが、それでもわたしの懐具合は良くなく、買えない日もあります。ある日のこと、給料前で買えないで悄然としていると、ツユがにゅうとピースの箱を差し出します。「ミツギモン」やと言うツユがちょっとなまめかしく見えます。しかし、その翌日からツユの姿が見えなくなります。はて、どうしたのか。
狆とは 日本で改良された小型犬。こんな感じです。
この作品の何が良いのか
たばこが三度の飯よりも好きな主人公の気持ちが、いきいきと描写されています。そして、安いたばこを買い続けるうちにツユのお得意さんになったのですが、そこからふたりが男女のほのぼのとした感情を抱いていく様とたばこに対する執着心が交錯する様が巧みに描かれています。終戦直後の貧しい状況のなかで、健気に生きていく若者たちの温かい心が伝わってきます。
たばこの商品名や味がかなり詳細に書かれていますが、だからと言ってたばこを推奨している訳ではありません。むしろ、たばこに執着する様から、ここまでの中毒性があるものなのかと、むしろ吸わない方が自由であると言えます。主人公とツユがたばこを媒介にして互いに惹かれていくのですが、このあとこうなったらいいなあと読者の期待をふくらませていくあたりは、書き手としてさすがです。
時代背景と考察
「闇たばこ」という言葉が、そもそも多くの読者には分からないかもしれません。配給品だったたばこですが、正規のルート以外で違法に売られていたのが、「闇たばこ」です。作中には、ツユがどのように商品を仕入れていたのかは書かれていません。ただ、商品名が明記されていますので、手製のものではなく、配給品の横流しだったのかもしれません。ちなみに、たばこの配給は昭和25年までありました。
コメント