著者プロフィール
阿部昭 (1934-1989)
短編小説の名手と呼ばれています。
私小説を多く残しています。エッセイなどもなかなか読みごたえがあります。
芥川賞の候補になること6回。最多記録です。受賞こそしなかったものの、作家として高く評価されています。
「散文の基本」の紹介
1981年福武書店発行
短編小説や書くことに関するエッセイ集。散文を書くための技術的なことと言うより、短編小説の魅力や散文を書くための心構えなどを実例も含めながら綴っています。わたしは、この本を1984/10/26に購入しました。サイン本です。しっかりとした楷書の署名が記されています。著者にお会いしたことはありませんが、その書体からは律義でまじめな人柄が伺えます。
主な見どころ
小説は楽しみのために書くもの読むもの
小説とはどういうものか、阿部昭の説明は明快です。
書くということが問われるたびに、いつも見落とされがちなのは、端的に小説なら小説を書くよろこび、あるいは単純に文章を書きたくなる気分、といったものである。p15 「書くということ」より
「文学」というとものものしく聞えるが、小説は楽しみに読むものである。書く上での苦労も、楽しく読んでもらいたいからこそである。p30 「笑いたい」から
単純明快ですね。書き手は文章でも小説でも、書きたいことを書けば良いし、読者はおもしろい、楽しいから読むのです。だから、書き手も読み手も、楽しい、おもしろい、感動するといった一見陳腐に思えるようなことを大切にしたほうがいい。実際、文章で人を笑わせるということは、思っているほど簡単ではありません。対面で話している時は、話の内容だけでなく、その人の表情とか身振りなども笑いを誘いますが、文章には、そのような視覚的な要素がないからです。そういう意味で、阿部は夏目漱石の「坊ちゃん」や太宰治の「新釈諸国噺」をユーモア小説として高く評価しています。太宰自身は小説の基本は「心づくし」だと遺稿「如是我聞」の中で書いています。笑いや涙を誘うような散文を書くには、読者に楽しんでいただきたい、感動してもらいたいという気持ちが不可欠だということです。
2022/9に「私の文章作法」「短篇小説論」を中心に日本語論、自作解説を増補した新編集版が発売されました。
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